アラビアのロレンス・キャンペーン in ヴィクトリアンエイジ・ヴァンパイア

h_nekozaki2005-09-27


アラビアのロレンスを元ネタにVAVのシナリオを考えてみる。
ロレンスが活躍したのは一次大戦中のことなので、VAVより2、30年後なんだけど、それはまあ、それとして。

時代背景

1916年。世界は第一次世界大戦のまっただ中にあった。
ヨーロッパ大陸では終わりの見えない塹壕戦が続き、兵士たちの血を貪欲にすすり続けている。
一方、イギリスはスエズ運河の権益を守るために中東方面でも戦端を開いたが、ドイツと結ぶトルコとの戦争は思ったように進展せず、インド・イギリス間の交易路は危険にさらされ続けていた。
そこでイギリスはメッカ太守フサインと手を結んだ*1。大戦後の独立を約束されたアラブ人は、パルチザンを組織してトルコにゲリラ戦をしかける。しかし、近代兵器で武装されたトルコ軍に対してアラブ・パルチザンは有効な攻撃ができず、思わしい戦果をあげられないまま損耗を続けていた。

キャンペーン開始までの経緯

ロンドン公子ミトラスは、イギリスの生命線であるインド航路を守るため、どんな手段を使っても中東方面作戦を進展させることを決意した。
ドイツ・ヴェントルーは恥知らずにもイスタンブールのアサマイトと結び、イギリス・ヴェントルーに対抗する手駒として使っている。トルコ軍を支援するアサマイトの活動を妨害できなければ、中東方面作戦の進展はあり得ない。
その一方でミトラスは、アラブ・パルチザンを率いるファイサル王子の動向にも監視の必要を感じていた。部族の寄せ集めに過ぎないパルチザンを統率し続けている王子の声望と手腕を警戒しているのだ。そして、もし王子がいずれかの血族に操られているとしたら……。ミトラスはその可能性を最も警戒していた。
大戦後のアラビア半島を、アラブ人にくれてやるつもりはミトラスにも大英帝国にもない*2。ミトラスはアサマイトに痛撃を加え、しかるのちファイサル王子を監視するため、直接手駒をアラビア半島に送り込むことを決意した。

プレイヤーキャラクター・サンプル

PCはロンドン公子の支配を受ける血族たち。
ミトラスは、血族1人に対してグール1人のユニットを数組、アラビア半島に送り込もうとしている。
そのため、プレイヤーは血族1人+グール1人を1ユニットとして受け持つことになる。
アラブ・パルチザンと共に行動するために、PCたちはそれっぽい肩書きを持つ者が集められる。

新聞記者:

民族独立のために戦うアラブ・パルチザンを取材するためにやって来た記者。

軍事顧問副官/陸軍情報部員:

アラブ・パルチザンの軍事顧問ブライトン大佐のもとへ副官として派遣されてきた陸軍軍人。もしくは、ロレンス中尉の部下として派遣された情報部員。

学者:

アラビア語イスラム教かベドウィンの風俗か。とにかく研究分野のフィールドワークに来た学者。

キャンペーンの目的

「ファイサル王子を守り、彼の作戦行動を支援せよ。
 同時に彼の意図と背後を洗え。
 特に血族の影がちらついたときは即座に報告しろ」
これがミトラスのPCに与えた命令だ。
PCたちはアラビア半島を転戦するアラブ・パルチザンと行動を共にし、予想されるアサマイトの攻撃からファイサル王子を守り、一時的にしろアサマイトの活動を終息させなければならない。

キャンペーンの推移

シナリオ1(舞台/ロンドン):

PCたちは公子の家令に呼び出され、上記の命令を伝えらる。
「作戦は長期に及ぶ可能性があるので、そのつもりで準備して欲しい。
 出発は○日後だ。何か質問は?」
命令を出した相手が並の公子であれば、命令拒否や街を出奔するという選択肢もあるかも知れないが、ロンドン公子はメトセラの1人であるミトラスだ。
質問をするにしろしないにしろ、PCたちは任務達成に必要な準備を大急ぎで整えることになるだろう。
カイロ行きの船はロンドン港から出航する。港へと向かったPCたちは、ドイツ・ヴェントルーとアサマイトたちが想像以上に長い腕を持っていることを思い知ることになる。
彼らの妨害を撃退した後で、PCたちは地中海航路をカイロへと向かう。

シナリオ2(舞台/カイロ):

スエズ運河を南下してメッカに入るために、PCたちはカイロに立ち寄る。
カイロ公子はPCたちを歓待してくれるが、ミトラスから届いた指令書も押しつけてくる。
『セト人○○と接触し、アサマイトに関する情報を入手すること』
指令書にはそう書かれている。
「エジプトの昼は大英帝国支配下にあるが、夜は我々が掌握しているとはとても言えない状況でな」
カイロ公子は夜ごと繰り広げられるアサマイトとセト人の抗争を説明し、アサマイトの足を引っ張るためなら、セト人は何でもするだろうと言い添える。
PCたちが接触したセト人は、情報の代価として1つ仕事をこなしてくれるよう持ちかけてくる。
(仕事の内容は考え中)
仕事と引き替えに入手した情報は、
「アサマイトには、トルコ支配に対抗してアラブ人を支援する分派が存在する」
というもので、メッカに潜伏するアラブ・アサマイトとの連絡方法も教えてもらえる。
PCは船でスエズ運河を通過して、メッカへと向かう。

シナリオ3(舞台/メッカ→メディナ→ワジ・サフラ):

メッカにたどり着いたPCたちは、アラブ・アサマイトと接触し、彼らの息のかかったガイドに導かれてメディナへと向かう。
さらにメディナでファイサル王子の宿営地の情報を入手したPCたちは、アラブ・パルチザンが潜むワジ(涸れ川)・サフラへと向かうことになる。
ワジ・サフラへとたどり着いたPCたちは、近代兵器の前に苦戦するアラブ・パルチザンの現状を目の当たりにする。
(映画のように宿営地を飛行機から機銃掃射されているシーンか、トルコ軍基地を襲撃して曲射砲で撃退されるシーンがいいのでは)

シナリオ4(舞台/ワジ・サフラ):

ワジ・サフラでファイサル王子と対面するPCたち。(実際に面会するのはグールだけで、血族は昼はミイラのように布にくるまれてて、夜だけこっそり活動することになるかも知れないが)
PCたちは、夜間にワジ・サフラ近くまで進出した飛行機から落下傘で降下し、宿営地に潜入してくるアサマイト暗殺者から王子を守らなければならない。
(実はアラブ・アサマイトも密かに王子を護衛しているが、彼らは極力PCたちの前に姿を現さずに、PCたちに独力で暗殺者を撃退させようとする)

シナリオ5(舞台/ワジ・サフラ→ネフド砂漠→ワジ・ラム):

アラブ局から派遣されている情報部員ロレンス中尉が、紅海の根元にあるトルコ軍基地アカバの攻略を提案する。
ロレンス中尉はハリト族とともにネフド砂漠を越え、陸側からアカバを攻略するために出発する。
この時になって、PCたちの前に1人のアラブ・アサマイトが姿を現す。ファイサル王子の脇に寵姫として侍っていた、アイダと名乗る女だ。
アカバにはトルコ・アサマイトの拠点がある。
 人間だけで行けば、アカバ攻略は失敗するだろう」
PCたちはアラブ・アサマイトの先導で、アカバ攻略のためにネフド砂漠を越える。
出発前にアイダはPCたちに釘を差す。
「ファイサル殿下は、アッラーが下したもうた偉大なる王者だ。血族の血で汚すことは許されぬ。
 貴様らがミトラスからどんな命令を受けてきたか知らぬが、もしファイサル王子に手をかけることがあれば、己の所行をつま先から一寸ごとに後悔させてやる」

(ネフド砂漠越えはGUNDOGのターゲット・レンジ・システムを参考にした累積判定を使って判定)
ネフド砂漠の向こうには、ハウェイタット族の根拠地が広がっている。族長アウダ・アブ・タイはトルコ軍とも取り引きがあり、その旗幟は鮮明ではない。もし、彼を味方につけられれば、アカバ攻略はより有利になるだろう。

シナリオ6(舞台/アカバ):

ロレンス中尉とハリト族(場合によってはハウェイタット族も)は、密かにアカバ近くまで攻略部隊を進めている。
PCたちはアカバにひそむトルコ・アサマイトに気付かれる前に、彼らを排除しなければならない。

(以下考え中)

主なNPC

ミトラス(ヴェントルー/♂):

ロンドン公子。紀元前から存在するメトセラの1人。

ファイサル王子(人間/♂):

メッカ太守フサインの三男。トルコ支配に対するアラブ・パルチザンの司令官を務める。のちのイラク国王。

T.E.ロレンス中尉(人間/♂):

イギリス陸軍情報部員。
戦況視察という名目でファイサル王子の元に派遣されたが、王子と意気投合し、アカバ攻略を提案した。攻略後はアラブ・パルチザンとともに対トルコ戦を戦い、ダマスカス入城を果たす。

ブライトン大佐(人間/♂):

イギリス陸軍からファイサル王子の元に派遣された軍事顧問。

アリ(人間/♂):

メディナ近郊を根拠とするベドウィン、ハリト族の長。ファイサル王子の忠実な部下。

アウダ・アブ・タイ(人間/♂):

ワジ・ラムを根拠とするベドウィン、ハウェイタット族の長。トルコと取り引きがある。

アイダ(アサマイト/♀):

アラブ・アサマイトがファイサル王子警護のために送り込んだ工作員。王子の寵姫を装っている。

すごく蛇足なコメント

このキャンペーンは、映画『アラビアのロレンス』を参考に考えられており、背景になっている設定自体も史実とは異なります(例えば映画では、ロレンスはサイクス=ピコ条約について推測はしていても確実には知らなかったことになっていますが、史実ではファイサル王子と出会う前に知っていたようです)。
また、ロレンスはアラブ独立の英雄として知られ、逆にトルコはアラブの圧政者のイメージがありますが、この当時のトルコのアラビア半島統治はそれほど過酷ではなかったようです(少なくとも、イギリスがとやかく言える立場にあるとは思えません)。
逆に、陸軍情報部の人間が私服で戦闘行為を行うことは戦時法違反で、中東方面で劣勢だったイギリスは承知しながら黙認していました。
ただ、アラブ・パルチザンと行動を共にしたロレンスは、イギリス帝国主義の手先に過ぎなかったのかといえば、それもまた違うようです。ロレンスは中東情勢に通じた少数の将校たちと同じように、手前勝手で場当たり的なイギリスの政策を中東情勢に混乱を呼ぶものと憂慮していたそうですし、一次大戦後はファイサル王子と行動を共にしたり、イラク王国が建設される際にはファイサル王子に王位に就くよう働きかけたりしています。
彼は、当時ほとんど正義と同義語だった帝国主義に抵抗した数少ない将校の1人だったと言えるでしょう。

*1:メッカ太守フサインと手を結んだ:フサイン・マクマホン協定のこと。

*2:大戦後のアラビア半島を〜:イギリスはフランスとの間に、大戦後の中東分割の協定をすでに結んでいた(サイクス=ピコ協定)。典型的な二枚舌外交。