少年が喰われる日
山々に囲まれた村。
村の外を知らずに少年は育った。
厳しい自然に囲まれた中での暮らしは、少年を引き絞った弓のように鍛え上げた。
畑仕事でも森の狩りでも、少年は大人顔負けの働きをした。
そして、それが少年をお館様の目に止まらせることになったのだった。
いつものように銃を持って猟に向かった少年は、門の前までついてきた母の、泣きはらした目を思い出していた。
少年に『抱擁の儀式』がおこなわれることが告げられたのは、つい先日のことだ。
儀式のおこなわれる日は知らされていない。
“それ”は今夜だろうか、それとも明日だろうか。
お館様の下僕たちは常に不意を襲い、少年たちを連れ去るという。
その日が、少年の、人間としての最後の日となるだろう。
一瞬、身体の芯が震えるような感覚に、少年は奥歯を強く噛みしめた。
儀式に選ばれた少年には、下僕たちに抵抗することが許されている。
怪物のような下僕たちに抵抗をしても無駄なことは分かっていたが、それでも、少年は力の限り抵抗するつもりだった。
少年は、肩に掛けた銃を揺すり上げると、再び森への道を歩き始めた。
彼の振るまいがお館様の心に沿い、新たな生を与えられたとしても、彼が人間として再び母の前に立つことはない。
それだけが少年には悲しかった。