折れた魔剣

折れた魔剣 (ハヤカワ文庫 SF (1519))

折れた魔剣 (ハヤカワ文庫 SF (1519))



 『折れた魔剣/ハヤカワ文庫 SF』読了ー。
 実は最近、年をとったせいか、人がでっち上げた架空世界に付き合うのがしんどくなってきておりまして、本屋で平積みされていたのを気乗り薄にペラペラめくってみたんですが……、

ユトランド半島北部の一郷士ケティル・アスムンドソンに、強者オルムと呼ばれる息子がいた。ケティルの一族は、人々が記憶にとどめていないほど古くからそこに住みついており、広大な土地を領していた。──

 うわー。こういうの読みたかったー!!
 最初の一文からすでに北欧のサガやエッダの匂いがプンプンしています。
 舞台は、西暦千年ごろのヨーロッパでしょうか。ちょうど、オーディンに代表されるアサ神族や、ルー率いるトゥアハ・デ・ダナーンの一族がしろしめすヨーロッパに、白いキリストの教えが広まってきた時代です。


 人間たちの暮らす世界からちょっとだけ次元をずらした〈仙郷〉と呼ばれる領域に住む、エルフやトロウルたち。
 物語は、エルフ太守イムリックが、まだ洗礼を受けていない赤子をさらい、代わりにエルフとトロウルの混血児を置いていくところから音を立てて回り始めます。
 エルフとトロウルは、〈仙郷〉に支配権をうち立てるためにたびたび干戈を交えていますが、イムリックは、人間の養子を来るべき対トロウル戦争の手駒として使うつもりなのです。しかし、回り始めた運命の車輪を、自分の望む方向に転がそうと考える者は彼以外にもいて、そのために物語は思わぬ方向へと突き進んでいくことになります。



 いやー、しかし、この世界のエルフ、いいですなー。指輪物語のお行儀の良いエルフたちより、もっと奇妙で不気味でいい感じです。
 そして印象的と言えば、「放浪する神」オーディン! このひとつ目の神は、要所要所に現れては、アサ神族の望む方向に物語を導こうとします。
 こういう神様がホントに登場しちゃうお話って好きなんですよね。映画の『トロイ』でも、ゼウスとかアテネとかがポンポン登場する話にしてくれれば良かったのに。


 と、まあ、そんなわけで、北欧神話のあの何となく陰鬱で血なまぐさく、荒涼とした雰囲気が好きだという方はぜひ読んでみてください。