用心棒日月抄 in VtM 第1話『子連れの歌姫』

用心棒日月抄の第1話『犬を飼う女』をシナリオに翻案してみる。
やっとすこし現実的な話になってきたなぁ。

シナリオ開始時の状況

原作『犬を飼う女』では、現時点での主人公・青江又八郎のおかれた状況と、これからの基本ストーリーが提示される。
まず、原作の場合を見てみよう。

青江又八郎の立場
  • 置かれた状況
    • 東北の小藩出身の脱藩浪人である
    • 家老大富による藩主毒殺の陰謀を漏れ聞いてしまった
    • 許嫁の父が大富家老に加担していたことを知らずに陰謀をうち明け、口を封じに殺されそうになったので、反撃して殺してしまった
    • 許嫁に、彼女の父を殺害する瞬間を見られてしまった
    • そのまま脱藩して江戸に落ち延びてきた
    • 大富家老の追求を避けるために、裏店に身を潜めている
    • 江戸は始めてで右も左も分からない
    • 国元から持ってきた金も尽きかけ、手っ取り早く稼ぎの道を見つけなくてはならない
  • 基本ストーリー
    • 口入れ屋(人材斡旋業)相模屋吉蔵をたずねて仕事先を教えてもらい、依頼人から事情を聞いて、期間のあいだ用心棒を勤める
    • 赤穂浪士と徐々に関わり合うようになる(最初は噂のみ)
    • 又八郎の口を封じるために大富家老の放った刺客が襲ってくる

短編連作の最初の一編を読むだけで、主人公の状況とこれからのストーリーの流れが読み手にきっちり分かる話の練り込まれ具合に感動しつつ、原作を参考に、VtM用シナリオ『子連れの歌姫』のPCの立場を書き出してみる。

PCの立場
  • 置かれた状況
    • ボストンの衛星都市アーカムを出奔してきたアナークである(ボストン公子には謁見していない)
    • 参議エッカルトによる公子休眠化の陰謀を漏れ聞いてしまった
    • 許嫁の父がエッカルト参議に加担していたことを知らずに陰謀をうち明け、口を封じに殺されそうになったので、反撃して殺してしまった
    • 許嫁に、彼女の父を殺害する瞬間を見られてしまった
    • そのまま出奔してボストンに落ち延びてきた
    • エッカルト参議の追求を避けるために、アナーク緩衝区に身を潜めている
    • ボストンは始めてで右も左も分からない
    • アーカムから持ってきた金も尽きかけ、手っ取り早く稼ぎの道を見つけなくてはならない
  • 基本ストーリー
    • 血族派遣会社ギルマン・ワークスをたずねて仕事先を教えてもらい、依頼人から事情を聞いて、期間のあいだ用心棒を勤める
    • プロヴィデンス・ブルハーと徐々に関わり合うようになる(最初は噂のみ)
    • PCの口を封じるためにエッカルト参議の放った刺客が襲ってくる

導入

原作では、口入れ屋・相模屋吉蔵をおとずれるところからストーリーが始まり、脱藩までのいきさつはそれ以前のこととして語られている。
VtM用シナリオ『子連れの歌姫』でもこれを踏襲して、アーカム出奔までのいきさつは口頭でプレイヤーに説明するか、テキストに起こして渡すことにする。
脱藩までの流れもセッションのネタになりそうだけど、脱藩浪人が江戸で用心棒をするという基本プロットに集中するということで…。

依頼内容

とあるヴェントルーの囲われ者には、幼い連れ子がいた。
夢遊病の気のある連れ子は、夜になるとフラフラと外に抜け出してしまう。しかも、連れ子は2度も何者かに誘拐されそうになったことがあるという。
そこでヴェントルーは、Cに夜間の見張り役をつけることにした。
PCは、夢遊病の気のあるCを見張り、できれば誘拐犯を捕まえて欲しいと依頼される。

主要NPC

登場する主要NPCを挙げてみる。名前は後で付けるっす。

キャプテン・ギルマン(ノスフェラトゥ/♂):

用心棒日月抄 in VtMを通じて登場するキャンペーン全体の主要NPC。血族派遣会社ギルマン・ワークスの代表取締役
半漁人のような外見に似合わず世話好きで、PCの仕事ぶりを見て徐々にPCたちを信頼するようになる(はず)。

A(ブルハー/♂):

後にPCたちの用心棒仲間になる血族。今回は顔見せ程度。
腕っぷしが強く押し出しもいいので用心棒には打ってつけだが、力押しに頼る癖がある。
人間時代から連れ添っている妻(グール)がいる。

B(グール/20代/♀):

今回の依頼人。Eの囲われ者でCの母親。夜ごとナイトクラブで歌う歌手。
夢遊病の気のある連れ子Cの用心棒を頼む。
彼女の歌はそれほどうまいわけではないが独特な味がある。

C(人間/3〜4歳/♂):

Bの連れ子。自閉症気味で夢遊病の気があり、夜になるとフラフラと外に抜け出してしまう。
以前、外をうろついているときにさらわれそうになったことがある。

D(人間/60代/♀):

BとCの身の回りの世話をするお手伝い。
家事などは手際よくこなすが夜に弱く、Cの見張りまでは無理。

E(ヴェントルー/♂):

今回の金主。やり手の実業家。
ナイトクラブでBを見初めて囲うことにした。BがCを連れてくることにいい顔をしなかったが、Bが強硬に主張したためしぶしぶ認めた。
自閉症気味のCのことは単なる厄介者くらいにしか思っていないがBには甘く、今でもナイトクラブに歌いに出ることも認めている。
実業家一筋できたため芸術コンプレックスを持っており、Bの歌に入れあげている。

F(マルカヴィアン/♀):

Eの商売敵。Eに言わせると「ウチのシェアを食い荒らして大きくなった」、躍進著しい実業家。かつてエリュシオンでEに面罵されたことがあり、今では顔を合わせても口もきかない。
今回のC誘拐は、Fの差し金だとEは確信している(が、実はまったく無関係)。

G(独立グール/♂):

今回の誘拐事件の真犯人。かつてのBの恋人で、もしかしたらCの父親。CはGにだけはなついていた。
小さなギャング組織の若い衆だったが、あるアナークに目をつけられて無理矢理グールにされたために、Bの前から姿を消していた。
Bがいつの間にか血族の囲われ者になっていることを知って驚愕し、CをさらってEがゴタゴタに巻き込まれている隙に、Bも連れ去ろうと考えていた。

H(氏族任意/性別任意):

アーカムのエッカルト参議から差し向けられた刺客。
仕事が一段落して気がゆるんだところを見計らったように襲ってくる。

I(ブルハー?/♂/故人):

Gの所属していたギャング組織のボスを殺して乗っ取ったアナーク。ブルハー氏族を名乗っていた。
ギャング組織乗っ取りの際に見事な抵抗ぶりを見せたGを気に入りグールにした。
アナーク同士の抗争で死亡。

『臣民保護条例』について

たとえ誘拐されかかったことがあるからといって、子供一人に血族をやというのも大げさと思うかも知れない。
しかし、これにはワケがある。
ボストンには『臣民保護条例』と呼ばれる強権的な条例が施行されているのだ。

カマリリャの勢力圏をサバトが包囲しているボストンでは、夜ごと熾烈な暗闘が水面下でおこなわれている。サバトの攻撃は直接的な武力侵攻の形をとることもあるが、カマリリャ参議会がもっとも畏れているのは、《造躯》と《支配》を駆使して作り出される「コピー人間」や、餌となる人間の群れに密かに《血》を仕込まれる浸透作戦なのだ。
そこでボストンのカマリリャ参議会は、臣下に保有する地所やグール、人間の群れを報告することと、何らかの異変があった場合には即座に報告することを厳命した。これが『臣民保護条例』である。
もちろんグールや人間が一時的にしろ行方不明になった場合にも報告の義務があり、仮に所在が分かった場合でも、精神操作や血の魔術を使った徹底的な調査がおこなわれることになる。
この条例は発布当初から非常に不評だったが、「対サバト防衛体制確立」を第一に掲げるカマリリャ参議会は強引に施行し、警吏の手先を街に放って報告漏れ資産没収などの処罰を課した。

Eの囲われ者であるBとCは、すでにEの資産として報告されている。しかし、Cの誘拐未遂事件も本来なら参議会に報告をしなくてはならないところを、警吏などに腹を探られたくないEは口をつぐんでいる。
この上でCが誘拐されでもしたらどんな追求を受けるか知れないため、Eとしてはなんとしても誘拐を阻止したいのだ。

コメント:

原作のキーになっている『生類憐れみの令』を翻案したらこうなりました。
あんまり意味がないけど、違反するとヒドい目にあう法律ってことで。
ボストンの公子や参議会の面々がどんな連中なのかハッキリ設定していませんが、原作通り五代将軍吉綱さんのような、インテリだけど下情に通じていなくて融通が利かないイメージです。
サバトの攻勢の前に躍起になって対策を立てていますがどこかズレた手ばかりを打つため期待したような効果は上がっていません。そのうち公子がすげ替えられるか、参議会が政権を掌握して飾り物扱いされることになるかも。

誘拐事件の真相

今回の誘拐事件の真犯人は、独立グールのGである。
GはもともとBの恋人で、おそらくCの父親である。小さなギャング組織の若い衆だったが、ギャング組織の乗っ取りをたくらんだIのためにボスは殺害され、Gはグールにされてしまった。
知られざる世界に踏み込むことになったGは、BやCに危害が及ぶことを恐れて彼らの前から姿を消した。
その後、Gは表向きのボスとしてギャング組織を指揮していたが、同じようなギャング組織を率いるアナークとの抗争中にIが死亡したため、突然に自由の身となった。
独立グールとなったGは、今まで通りギャング組織を指揮しながら、密かにBの行方を探った。そして、BがEの囲われ者になっていることを知ってEの身元を洗い、今回の誘拐を思いついた。
Gとしては、Bも大事だが、Cも大事なのだ。C誘拐でEの身辺がゴタゴタし(Gは『臣民保護条例』のことも知っている)、万一Bが放り出されるようなことがあれば万々歳。そうならなくても血族社会でのEの信用が落ちれば、Bにかまけている時間はなくなるだろう。その隙にBも連れ出せると踏んでいた。
CもBも誘拐されてコトが大きくなれば、下手をすれば警吏が動き出すかも知れないのだが、BとCのことで頭がいっぱいのGは、そこまで気が回っていない。