人外カンフー VS 空飛ぶ目玉 in D&D3e

h_nekozaki2006-05-14


冒険者たちは窮地に陥っていた。
遠隔視呪文《スクライング》によってビホルダーの位置を特定し、《テレポート》で強襲して1体ずつ倒す。そういう作戦だった。
しかし、仲間を殺されたビホルダーたちは2体とも同じ部屋に籠り、迎撃体制を整えていたのだ。
視点を動かせず、部屋全体を視認できない《スクライング》の弱点を突かれた形だった。

先手を取ったビホルダーたちは、お互いを呪文無効化光線の範囲に入れてしまわないように連携している。
《ディスインテグレイト》、《チャーム・モンスター》、《フィンガー・オブ・デス》。2体の放つ致命的な光線にさらされながら、必死の反撃を試みる冒険者たち。
「コンチクショーッ!! やったるわー!!」
ビホルダーの左脇に飛び込んで呪文無効化光線を避けた魔術師ジャンが、《ディスインテグレイト》で1体を塵に変えた。
しかし、その間にもう1体のビホルダーからの怪光線が浴びせられ、部屋の奥にはビホルダーの部下が控えていた。

「悪・即・斬!!」
鎧のあいだから血を滴らせながら、聖騎士イリアが剣を振るう。
破邪の一撃はビホルダーに深々と突き刺さったが、巨眼の怪物はその痛撃に耐えた。
また光線が来る。いつまで耐えられるのか。
奥歯をかみ締めた次の瞬間、イリアの脇を渦を巻いて疾風が駆け抜けた。
体に巻きつけるように三節棍を構えた武闘家ディランが、絶招歩法で一瞬にしてビホルダーとの距離を詰めたのだ。
「ほわーッちゃちゃちゃちゃちゃちゃーッ!!」
怪鳥の如き気合とともに三節棍を叩き込むディラン。
「ちゃちゃちゃちゃちゃちゃぁあーちゃーッ!!」
驟雨の如き連撃が止んだとき、ビホルダーは血溜まりの中に沈んでいた。


苛烈な戦闘の日々を送る冒険者たちに祝福を。
今回のセッション、主役は武闘家ディランでした。
練りに練った内丹によってその手は魔を滅ぼし、その足は空間の狭間を飛び越えます。
ついには呪文抵抗能力まで手に入れたディラン。武闘家の最終目標・即身成道も、もはや射程の内にあるでしょう。
その内、五色の雲に乗ったムキムキマッチョマンが、サムズアップ&ボディビルダー・スマイルで迎えに来るかもしれません。
「ヘイ、ブラザー! ナイス・バルク!(挨拶)
マッスル・ヘヴンから君を迎えに来たぜ!!(「ヴ」は下唇の上に歯を当ててから破裂させるように発音すること)」
とか何とか。

★★注意! このセッションリポートは既製シナリオ『現われた地下都市』のネタバレを含みます!★★


【パーティメンバー】
アルザスクレリック/人間/♂)
イリア(パラディン/人間/♀)
ジャン(ウィザード/人間/♂)
ディラン(モンク/人間/♂)
シェラザック(ブロンズドラゴン/♂)


まだ2体いるってさ

ビホルダーに支配されたり奴隷にされたりしていたクリーチャーから、まだビホ仲間が2体いると聞き出した我らが冒険者たち。呪文も種切れなので、いったんコウモリ人間デズモドゥの村まで引き上げることにしました。
解放したクリーチャーによると、ビホルダーの1体は外を巡回していて、もう1体は神殿の奥に潜んでいるとか。これは外を巡回しているビホルダーから各個撃破するにしくなしと話がまとまりました。
外をうろついてるなら、新しい呪文が必要だということで、また地上世界に《テレポート》で買い出しに。《ロケート・クリーチャー》の呪文を購入しました。効果範囲内に指定したクリーチャーがいると方角が分かるという便利呪文です。欠点は、同じ種族が複数いると一番近いヤツしか位置が分からないことと、対象までの距離が分からないこと。
まあ、《ロケート・クリーチャー》に反応があったら、《スクライング*1》や《アーケン・アイ*2》で偵察しましょうということにして出発です。

ドロウ・エルフの廃墟にある程度近づいたところで《ロケート・クリーチャー》を発動ビホルダーを探します。したら範囲内に感あり。どうやら神殿の上階あたりに潜んでいるようです。
あれ? 外を巡回してるのが引っかからない? おかしいな。
しばらくその場で様子を見てたんですけど、ビホルダー反応は一カ所に留まったままで動く様子もありません。このままではらちがあかないので、改めて《スクライング》で偵察し、見たらすかさず《テレポート》で強襲することに。

で、《スクライング》に必要な鏡が置いてあるバーンダーさんの宿坊に戻ってきた冒険者たち。さっそく鏡の前に陣取って、呪文を唱えます。
鏡の前でもにゃもにゃやること1時間*3、鏡面にビホルダーの姿が映し出されました。どうやらどこかの部屋の中でじっとしてる様子。
知能の高いビホルダー相手なので《スクライング》に気づかれるのは承知の上です。すかさず鏡に映るビホルダーを目標に《テレポート》しました。


おーっとビホルダー兄弟の息のあったコンビ・プレーだ!

《テレポート》でビホルダーの背後に転移した冒険者たち。
呪文無効化光線を放つ目玉がこちらを向く前に先手をとって倒しちゃろうという作戦です。
「じゃー、バトルフィールド用意するねー」
と、タイルの上にフィギュアを並べ始めるDM*4。……ちょっとちょっと、その部屋の隅にいるのはなに?
「もう1体のビホルダー
な、なんだってーっ!?
「で、部屋の向こうにも、タナーリ*5が1体とデズモドゥが2体いるから」
「……」
あー、《スクライング》は鏡を通してのぞき見をするような呪文ですからねー。映し出されたビホルダーからちょっと離れてる連中は見えませんやねー。まさかこんなにゾロゾロ引き連れてるとは思わなかったやー。あはははは。
そんなわけで、もののみごとに包囲網のど真ん中に飛び込んでしまった冒険者たち。部屋の隅から照射される魔法無効化光線のために、事前にかけてあった強化呪文はことごとく抑制されています。その上、ビホルダーたちはお互いを避けて冒険者にだけ魔法無効化光線を浴びせているため、彼ら自身は凶悪な光線を思うさま撃てます。
「ひゃっはー! ばい菌は消毒だーっ!!」
と、いい気になったビホルダーが放つ抵抗失敗即死亡な光線を浴びまくる冒険者たち。ドラゴン・シェラザックと聖騎士イリアが集中砲火を受け、即死はまぬがれたもののガリガリと体力を削られます。
し、死ぬ。死んでしまう。
こうなったらノーガードの打ち合いや! 最後に立ってる方が勝ちや! と、ビホルダーの懐まで飛び込む魔術師ジャン。鎧も着ていない魔術師が敵に肉薄するのは危険この上ないですが、魔法無効化光線を避けるにはそれしかありません。
「バカの一つ覚えの、《ディスインテグレイト》ー!!」
ビホルダー1体は抵抗失敗。塵となって消滅。すかさずイリアが残りの1体に接敵し、《悪を討つ一撃》を乗せた剣で斬りつけます。が、かなりのダメージを与えたものの、ビホルダー、撃沈せず。
このターンはビホルダーの部下も動いてきます。ビホルダー冒険者のあいだに割って入られたら長期戦はまぬがれません。
と、そこで武闘家ディランの行動順。部屋の片端から驚異的な移動力でビホルダーの右脇に滑り込んで魔法無力化光線の効果範囲から離脱。これでガチガチにかけてある強化呪文の数々が復活しました。満を持して、三節棍で攻撃。
「あ、クリティカル・ヒット」
おー、やったね! で、ダメージはいかほど?
「三節棍のクリティカル・ヒットは3倍ダメージで、武器のダメージも筋力ボーナス分も《スパイク*6》の追加分も3倍だから……」
ビホルダー、トマトのように飛び散りました。
ボスを瞬殺したディランの働きを見て、デズモドゥは慌てて降伏。しかし、タナーリは腐っても悪の化身。徹底抗戦の構えです。
「《ホールド・モンスター》!」
すかさず呪縛にかかったジャンの呪文を、悪鬼の意地を見せて抵抗。
これはもうひと荒れあるかと思ったら。
「あ、またクリティカル・ヒット」
ディラン、2連続クリティカル。タナーリは何もしないうちに首を部屋の隅へ弾き飛ばされて死亡。
ディランの背中に現れた究極のヒット・マッスル“鬼の貌*7”を見ながら、「これからは怒らせないようにしよう」と胸に誓う面々でした。


こんなもんじゃ足りねぇぜ!

ボスキャラを始末した後は、いつものお楽しみ、宝探しです。降伏したデズモドゥたちから宝物庫の場所を聞き出して略奪。そこそこの収穫はあったものの、期待していたほどではありません。
「よし! まかせろ!」
と、《ロケート・オブジェクト*8》の呪文で宝石やコインの位置を探る神官アルザス。すると、神殿地下に感あり。
「我々の求めるものは下だ!」
「え、でも、それじゃ、あそこに行くの?」
一様に渋い表情になる冒険者たち。
実はここに来るまでの間にスルーした部屋があったのです。
それは、神殿入ってすぐの大広間に開いていた穴から下へ続く部屋。地下にあるためか完全に水没しており、しかも魔術師ジャンがホムンクルス*9を偵察にやると、たちまち水面から触手が伸びてきて絞め殺してしまいました。
「あれ、なんだったんだろね」
絞め殺される瞬間にテレパシーで届いたホムンクルスの断末魔を思い出しながら、げっそりした顔をするジャン。
しかし、お宝が待っている以上引き下がるわけにもいきません。いったんデズモドゥの村に引き上げて、体勢を整えてから再アタックすることにしました。


カメラがとらえた驚愕映像

水中戦闘用に《ウォーター・ブリージング*10》やら、触手に捕まったときのために《フリーダム・オブ・ムーブメント*11》やら、もうとにかく思いつく限りの準備をして水没した部屋の入り口に立った冒険者たち。
「まあ、いきなり飛び込むのもなんだから、カメラ入れましょうか」
と、もはや恒例の《アーケン・アイ》を唱えて、魔法の目玉を偵察に出します。
「この地下洞窟にカメラが入るのは世界初のことです」
NHK風のナレーションを入れつつも、内心ドキドキで魔法の目玉を進めるジャン。
そして、濁った水の奥に魔法の目玉が捉えたものは。
「うんとねー。こんくらいのサイズのイカっぽいのがいるよ」
DMが明るく示した「こんくらい」は、けっして狭くはない部屋にミッチリ詰まったサイズでした。とりあえず知識判定に成功して、モンスターマニュアルでチェック。
「クラーケン……8本の触手を持ってて、胴体は27m、触手は最長30.5m」
「なんじゃあ、そりゃあ!」
「いや、こんな水没した廃墟にこんな巨大UMAはおかしいだろ!?」
それはともかく、戦闘開始です。


怒らせちゃいけない人Part2

とにかく、ヤツが攻撃してくる前にカタを付けたい。冒険者たちは必死で知恵を絞ります。
「今使わずにいつ使うというのだ!」
《サモン・モンスター*12》でセレスチャル・オルカ*13を召喚する神官アルザス。たちまち階下はシャチと大王イカが食い合う野生の王国に。
その隙にケリを付けようと鼻息も荒く水に飛び込む魔術師ジャン。
「呪縛されろや! 《ホールド・モンスター》!」
「あ、抵抗成功」
「なんの、《ヘイスト》かかってるからもう一発《ホールド・モンスター》!」
「あ、また抵抗成功」
「なぁんだってぇぇぇぇぇ!?」
「じゃ、こっちの攻撃ね」
必中を期して臨んだ《ホールド・モンスター》2連撃を弾かれて茫然自失のジャンに、無常にも襲い掛かるクラーケンの触手。
「当たった。当たった。当たった。3発命中」
案の定、ローブ一枚着たきりのジャンにビシバシ当てるクラーケン。これは死ぬか? 死んじゃうのか? と思ったものの。
「あ、そうだ! ジャン、《ミラーイメージ*14》かけてるよ! 分身が7体いるよ!」
かけたっきり忘れてた呪文を思い出すジャン。仲間の後ろに隠れて、めったに攻撃を喰らわないので役に立ったためしがなかったのです。
「じゃ、分身が3体消えただけだね」
ふーうと汗をぬぐうジャンの脇をすり抜けて、武闘家ディランや聖騎士イリアもクラーケンに襲い掛かります。しかしこの巨大イカ、ちょっとやそっとダメージを与えたところで死にそうにもありません。
その時。
「拙僧の出番のようですな」
おもむろに水中に飛び込んでクラーケンに接敵するアルザス
「まず接触攻撃ね。命中。で、《ハーム*15》!」
アルザスの掌から鬼火のような光が湧き上がり、手が触れた一点を中心にして、閃光がクラーケンの巨体を走り抜けました。
ビクビクと痙攣するクラーケン。
そこにすかさず、
「《ヘイスト》分の追加行動で普通に殴る。命中」
「はい、死んだ」 
え、なに? とイマイチ事態が飲み込めていないジャン。
「これが信仰魔法奥義《ハーム》の力です!」
なんだかよく分からないけど、この人も怒らせないようにしようと思うジャンでした。


戦い終わって

そんなこんなで、クラーケンも意外とあっさり始末した冒険者たち。
その後はさんざん家捜しをして財宝を漁り、満足したところでデズモドゥの村へと帰りました。
「ありがとうありがとう。あんた達のお陰で無事に暮らせるよ」
と感謝しきりのバーンダーさん。
一応僕たちは、コウモリ人間デズモドゥの危険を排除するために、方々の要塞に殴りこみをかけてたんでした。よく忘れますが。
しかし、また危険なモンスターが廃墟に住み着かないとも限らないと不安な胸の内を明かすバーンダーさんに、見どころのありそうな子弟を地上に留学させて、魔法でも習わせたらどうなの? と提案する魔術師ジャン。
「昔は溶岩の流れを変えられるくらい偉大な魔術師がいたんでしょ?
また養成すれば、立派な魔術師が出てくるんじゃないの?」
「おお、それは名案じゃ。アンタが仕込んでくれるかね?」
「あー、それもいいねー」
楽しげにデズモドゥの未来を語り合うバーンダーさんとジャンを見ながら、いや、それは教育上やめておいた方がいいんじゃないかという顔をする他の面々でした。


そんなこんなで幕を閉じた『現われた地下都市』。
次は、畢竟どのような冒険が、冒険者たちを待ち構えているでしょうか。
それは次回の講釈にて。

*1:《スクライング》:姿見ほどの大きさの鏡に目当ての相手を映し出す呪文。非常に便利だが、見る相手の知力が高いと気づかれる可能性が高い。

*2:アーケン・アイ》:浮遊する魔法の目玉を作り出す呪文。秘術呪文には、この手の覗き見系の呪文がやたらにある。

*3:1時間:《スクライング》は手間のかかる呪文で、発動に1時間もかかる。魔術師って気の長い連中だよなぁ。

*4:DM:ダンジョン・マスターの略。TRPGセッションの進行を管理する支配人。プレイヤーの前に現れる敵も味方もすべてを動かす役。大変だが、プレイヤーとは違う楽しさがある。

*5:タナーリ:悪の次元界に住む悪鬼邪鬼のたぐい。聖騎士イリアや神官アルザスにとって不倶戴天の敵。

*6:《スパイク》:木の武器にトゲを生やし、命中に+2の強化ボーナスとダメージに+術者レベルのボーナスを与える(最大10)。さらにクリティカル可能域は倍になる。しかし、ダメージボーナスが+10って、武器そのもののダメージより大きいよ? どんなトゲトゲなのか。

*7:鬼の貌:『グラップラー・バキ/チャンピオンコミックス/板垣恵介』参照。

*8:《ロケート・オブジェクト》:指定した物品の位置が分かる呪文。

*9:ホムンクルス:羽の生えた人造魔法生物。サイズも小さく非力だが、製造主の魔術師とテレパシーでつながっているため偵察などに用いられる。ちなみに魔術師ジャンの作るホムンクルスピクミンの格好をしている。よく死ぬ。

*10:《ウォーター・ブリージング》:水中でも呼吸ができるようになる呪文。別名オキシガム。

*11:《フリーダム・オブ・ムーブメント》:行動を阻害する魔法的・物理的束縛から自由にしてくれる呪文。水中でも自由に動けるようになる。便利。

*12:《サモン・モンスター》:異次元からモンスターを召喚して助力を得る呪文。

*13:セレスチャル・オルカ:セレスチャル種は善の上方世界に住む天使っぽい生物なので、セレスチャル・オルカはシャチの天使なのだろう。天国で氷の上にいるアザラシ突き落として喰ったりしてるんだろうか。

*14:《ミラーイメージ》:自分そっくりの幻影を作り出して、敵の攻撃を逸らすニンジャライクな呪文。

*15:《ハーム》:負の生命エネルギーを相手に注ぎ込んで、1〜4ポイントの体力を残してごっそり生命力を奪う呪文。相手に接触しないと使えないが、抵抗不可という凶悪さが光る。